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スウェーデンにおける教育無償化の考え方

 ここでは、まず『教育を家族だけに任せない 大学進学保証を保育の無償化から』(大岡2014)において書かれたスウェーデンの教育無償化の考え方をまとめた。  


 スウェーデンにおいては、高等教育は公財政で賄い、学生負担は本人がアルバイトやローンで負担する、親負担主義の排除が見られる。実は、親負担主義の否定は1960年代半ばから制度によって形成されてきた意識である。大岡はスウェーデンの奨学金制度における親負担主義の廃止の経過を追っている。それは、社民党優位のもとで整備されていった。社民党は中間層の支持を得るために、普遍主義的な福祉政策が人々の自由な選択を可能にするとし、最低所得の保障から保障水準を上げた。1965年の新しい奨学金システムもその一環であった。そこに至る奨学金改革をリードしたのが、学生福祉調査委員会委員長であったパルメである。彼は、委員会に様々な利害を持つ関係団体の代表を直接参加させた。そこでは、親の資力調査に基づく旧来のシステム維持について激しい議論が行われた。最終報告では、経済的理由により進学をあきらめた人も含む納税者からの税金が、将来恵まれた職に就くだろう学生に使われる逆進性や公的財源の削減から、卒業後の収入に応じて返済するローンの奨学金が提案された。

 

 一方で、国が学生生活の支援を行う根拠として挙げられる、平等の根拠と成人の独立の根拠が、貧困学生の救済とすべての学生への同じ支援という特徴において矛盾していた。加えて、成人の独立を挙げる根拠と考えられる大学進学における家庭の経済的差異の影響の減少は、普遍的奨学金における貧困学生の借金への懸念を軽減し高等教育への門戸を広げるという指摘と矛盾していた。そのような矛盾を抱えていることを承知で、パルメは合理的なローン奨学金のみにせず、親の資力調査のない給付奨学金を存続させた。その背景には、上述の選択の自由に基づく親からの学生の独立があった。


 上記で存続した給付奨学金は逆進性の問題を持っている。それを克服する方法には、逆進性に勝る価値判断の設置と高等教育の普遍性を高めることがある。スウェーデンにおいては勝る価値判断として親からの独立を置いた。また、高等教育の普遍性を高めるために、就学前教育が有効として支援を行っている。なぜ、就学前教育が有効かというと、その年齢に保育を受けるとその後の学習意欲に良い影響があるという研究結果があるからである。スウェーデンでは、以前は入所の際に選別主義をとり、そのサービスは働く親のためであった。その後、民営化や地方分権化によって地域間格差が拡大したり保育料が引き上げられたりした。その流れに対して、1990年代後半~2000年代にかけて子供のための普遍主義的サービスの流れが生まれてきた。そして、最終的に将来の労働者として子供たちをとらえ、平等に子どものための支援を行うようになった。また、保育料が高くなりすぎないように料金の上限を決め、マージナル効果を抑制しようとしている。

 

 続いて、『地方分権化におけるスウェーデンの教育財政システムの検討 -学校予算に対する自治体の統制機能に着眼して-』(末冨2007)をまとめ、スウェーデンの教育財政システムを概観する。

 スウェーデンでは1993年に補助金改革が行われ、中央政府から基礎自治体への特定目的補助金の75%が廃止され、学校教育分野も例外ではなかった。そして、その財源のほぼすべてが一般財源化された。教育に関する事務範囲は県と基礎自治体で完全に分けられており、教員給与や人件費も含む高校までの学校教育が基礎自治体の区分である。基礎自治体の財源において、水平的財政調整制度が特徴的であり、自治体間で人口不均衡による財政力格差を調整する制度だ。対して、日本では地方交付税交付金が主な財源となる垂直的財政調整制度である。前者の制度は、地方税の割合が高く基礎自治体歳入の約60%を占めることに支えられている。つまり、税収の多い自治体が中央政府に納付金を治め、少ない自治体には交付金が交付される。調整された自治体の財源が適切に学校教育費として利用されるために、中央所管官庁であるスウェーデン学校庁がチェックの役割を持つ。学校庁は、国内の全教育機関に対する6年ごとの学校監察や、基礎自治体の教育財政支出に関するデータの公開を行っている。それは、同規模の基礎自治体の比較を可能にする。また学校監察では、生徒の社会的経済的状況と照らし合わせて支出をチェックする。  


 次に、基礎自治体と学校の関係について。学校関係予算額は基礎自治体の議会によって決定される。決定プロセスは以下の通りである。「①議会が毎年度の財政収入と教育局の試算等にもとづき、学校予算総額を決定する。②各校長に予算が提示され、校長はそれにもとづき予算案を作成する。ただしその予算案が年度予算として教育局の承認を受けるためには、その現実性・妥当性についてあらかじめ教育局のチェックと調整を経る必要がある。③教育局のチェック後に学校予算は教育局に承認され、執行される。」教育局とは、議会内教育委員会の下位部局である。そして配分プロセスは以下の通りである。学校予算は、児童のバックグラウンドを考慮して出された一人当たりの単価に基づく。


 スーデルテリエ市においては、生徒数に応じた予算配分が行われている。まず、教育局が学年による標準単価を定め、学校ごとに所属する生徒のバックグラウンドを考慮した補正係数とかけることで学校の単価を出す。この補正係数の設定が特徴的だ。さらに、必要な生徒には特別予算が配分される。それらを足し合わせ、学校予算が算出される。配分方式は、単価設定や補正係数が裁量範囲であるために自治体によって多少差異がある。そして、学校予算の使途については主に校長が学校経営計画を作成することで決定していく。教員と保護者で構成される学校理事会や生徒が校長に意見を述べられるが、校長が強いリーダーシップを発揮する。その執行過程において、教育局が厳密なチェックを行い、そのチェックにおいて予算超過が生じ3段階目の警告が発せられると校長は解任される。しかし、生徒数の変化等による予算不足になった時には柔軟な調整を行う。この方式の背景には、地方分権改革による地方赤字増大への反省がある。厳格な調査があるものの、スウェーデンにおいて校長の権限が重視されているのは、学校庁が校長の要請プロブラムを実施しているために成り立つと考えられる。

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